創刊以来フランスからの取材原稿を掲載してまいりましたが今回が最終回となります。ご愛読ありがとうございました。
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本誌パリ駐在員 山田アキトシ

1967年ヴィルトン(ベルギー南部)生まれ。 1990年サン・リュック高等美術学校(漫画科)卒業。 1990年〜1991年デザイン事務所勤務。 1992年フリーランスのイラストレーターとして独立。フランス、ベルギー各地で展覧会開催。

 レンガ造りの家屋の前に、プラタナスの大きな並木が枝を広げ、霧雨に濡れた道路を、ヘッドライトを点(つ)けて車が行き交(か)う。二月の空は雲に覆(おお)われ、ブリュッセルの街は、薄灰色に曇っている。ミディ駅からしばらく環状道路を進むと、やがて、こじんまりとした建物がどこまでも続く、長い大通りに出る。フレデリック・ティリイのアトリエは、この大通りに面した建物の三階にある。
  「こちらの部屋で、イラストレーションの仕事をし、隣の部屋でコラージュの制作をしています」
  ほっそりとした長身の彼は、エレガントな物腰で、アトリエ内を案内してくれる。
  「私のイラストレーションの仕事は、広告やポスター、本の表紙、そしてベルギーの日刊紙『ル・ソワール』の挿絵など、いろいろな分野にわたっていますので、興味が尽(つ)きません。そうそう、昨年、一昨年と、二年続きで、隣国のルクセンブルクの郵便切手のデザインも手がけました」
  グレーのワイシャツに、黒いカーディガンをはおった彼は、姿勢正しく、背筋を伸ばして話す。
  「子供の時から、ベルギーやフランスの漫画が好きで、有名な『タンタン』などの漫画の上に、トレーシングペーパーを重ね、鉛筆で写して遊んでいました。黒インクの線描と、カラーインクの平塗りの着色が、とても好きだったのです。それで、どうしても漫画家になりたいと思って、ブリュッセルにある美術学校の漫画科に進んだのです。それまでは、田舎の村に住んでいましたから、ブリュッセルでは見るものすべてが新鮮で、特に、新しい技法で制作された漫画を見たときには、感動しました」
  能弁な彼は、流れるように話すが、それでいて、物静かな印象である。
  「漫画の本は、シナリオライターと共同で何冊か出版しましたが、すぐにイラストレーション専門に転向しました。そして、イラストレーションの仕事と並行して、純粋な芸術表現としてコラージュの作品も制作しています。これは、自分で撮(と)った写真や、古い雑誌の写真、インターネットで見つけた写真などを元にして、制作したものです。もともとの写真を、ひそかに、まったく違った意味合いのものに変換して、作品として発表しているのですから、私は『写真の密売人』のようなものです」
  そういって彼はにっこりと微笑(ほほえ)む。
  「コラージュの制作は、まず、アニメーションの原画に使用する薄い透明なフィルムシートに、黒色の紙を貼付します。そして、描きたい形に沿ってカッターで切り込みを入れていき、余分な箇所(かしょ)の紙を剥がし取ります。そうすると、ペンと黒インクで描いたかのような、シャープな線が残るのです。それから、別のフィルムシートに、色紙を貼り、同じようにカッターで切り抜いて、必要な形態だけを残します。こうして作った数枚のフィルムシートを重ね合わせると、線描し、着色したかのような効果の画面が出来上がるのです」
  彼の背後にある、大きなテーブルの上には、何枚もの制作中の作品が、積み重なっている。
  「私のコラージュは、ちょうど漫画の一コマを取り出したようなものです。漫画と違うのは、『フキダシ』がないということだけでしょうか」
  そう言って、フレデリック・ティリイは、おだやかに笑った。

 

 

 

 

※フレデリック・ティリイさんのHPがあります。ご覧ください。

www.fredericthiry.be

 
 
「写真を元にして制作しています」
 
 
大きなテーブルのあるアトリエ。