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60年ほど前、東京にもまだどこにでも縁日があり、娯楽の少なかった当時の重要なイベントとなっていた。縁日では漫才コンビや大道芸人のような人たちが、夜の野外ステージで大いにその場を盛り上げていた。縁日といえば屋台。その時でなければ食べられない食べ物が並んでいた。色も毒々しくそれが何とも言えない魅力となっていた。それらを食べると、口の中がその色で染まり皆で笑いあったものである。今では、発癌性のあるものとしてお目にかかることができない。
縁日では駄菓子屋や文房具屋で売っていない珍しいものが売られており、食べ物を買うつもりで貰ってきたお小遣いを握りしめ、おじさんが動かす魔法のようなグッズに目が釘付けになるのである。
その中に、溶けてインクになる鉛筆があった。あまりの不思議さから水飴を買うのを止めインク鉛筆を買ってしまうのである。インク鉛筆は書いたあと水を付けるとインクになってしまう。早く書きたく鉛筆の芯をなめては紙に書いた。
色はインクと同じ紺色。この後、赤があることが分かり、さらに興奮した。あの、興奮は黒の鉛筆が水によって別の色になることだった。まさに魔法の鉛筆だった。
書いた後にしばらくしてからインクになるもの等が開発され、やがて水彩色鉛筆が登場した。
これほどの色数のものが水で溶けることを知り、インク鉛筆同様の興奮を覚えた。縁日で衝撃的な出会いをした水で溶ける鉛筆は今や絵画の画材にまで発展した。クレヨンでも水性のものが開発された。水性クレヨン(水性クレヨンハニーBee)は水で落とせるクレヨンで壁などに描いてしまったときに水で拭き取ることができる。水彩画ももちろん描ける。パステルが水に溶けるのは有名だが、元々顔料と粘土だけで固めたものなので油でも溶ける。最たるものは固形水彩で、水で溶かすことで使うことができる。水で溶かすという歴史はこれからも続く。